総ての虚偽の下に埋もれていたのは。
『B・16』
翡翠の双眸は今までのどの瞬間よりも余裕が無いように思えた。
空き教室で見せた妖艶さも。
屋上での容赦ない酷薄さも。
その総ての根底にあった、虚ろさまでもが。
一歩、一歩と少年が歩み寄ってくる。
視界の端で、ラクスは何も言わない。
迷っているのかもしれない、とカガリは思った。
アスランの言う通り出て行くか、否か。
今迄のラクスなら迷わず出て行っただろう。
だが、もはやカガリとの関係は以前ほど無慈悲なものではない。
(まさかクライン先生に案じて貰える日が来るとは思わなかったけどな)
だが、その変化はカガリに多少なりとも勇気を与える。
カガリは唾を飲み込んだ。
「クライン先生…私は大丈夫です。行って下さい」
空色の瞳が大きく揺れる。
カガリはもう一度笑んでみせた。
「大丈夫です」
桜色の唇が何か言い掛けて開き、けれど、迷うように閉じられた。
視線が交錯し、やがてラクスは何も発する事なく、諦めたように息を吐く。
そして、扉を開け、
「…ご武運を」
たったそれだけ言い残すと、静かに出て行った。
閉まる扉の音を聴きながら、カガリは問い掛けに対する答を模索し続けた一ヶ月をぼんやりと思い出す。
(ずっともやもやして、締め付けられて、とても気持ちが重かったな)
カガリはそれを、答を見付けられない歯痒さのせいだと思っていた。
けれど、今になって気付く。
これは、歯痒さのせいだけじゃない。
(この気持ちに名前を付けるなら、何ていうんだろう?)
答は知りたいようで、知りたくなくもある。
たった一ヶ月しか重ねていない、それでも夢にまで見た教師生命をたった一人の少年に全力で賭けようとしている自分自身に、少しも戸惑いを覚えないわけではないけれど。
カガリは静かに口を開く。
「…立ち聞きしてたんなら、もう理解してくれてもいいんじゃないか?私の事」
目の前にアスランが立った。
「……行為が伴わなきゃ、お前は言葉を信じられないのか」
翡翠が一瞬にして強張った。
鋭く息が漏れる音が聞こえたかと思うと、カガリの視界が勢いよく反転した。
背中でベッドのスプリングが激しく軋み、自身が押し倒された事に気付く。
反動で浮かび上がる身体を、少年の長い指が押さえ付けた。
見上げる先でぶつかった瞳に、思わず上げかかった悲鳴を飲み込む。
―――獰猛で、けれど、泣きそうな瞳。
「無償の愛をくれるんだろ!?だったら俺の行為を受け入れろよ!!」
叫ぶアスランの姿に、カガリの胸が強く締め付けられる。
「証を見せろ!見返りも、何もいらないって。総てを知って、それでも本当に俺が欲しいって…!!」
声音に甘さはひとかけらも無く、けれど、等しく冷たさも無かった。
「何があっても受け止めてくれるんだろう?許してくれるんだろう?目茶苦茶に抱いた後で、あんたに訊くからな。これでも俺を許す?って」
「…アスラン」
「本気で想ってくれない奴なんか想って堪るか。手に入らない物なんか、欲しがりたくないんだ!」
射抜くような強い視線に目眩を覚える。
揺れる琥珀が少年の顔の表面を幾度も彷徨った。
全身から否定と願望を爆発させる姿は、癇癪を起こす子供のようで。
「俺を好きだって証を見せろ!見返りも、何もいらないって。総てを知って、それでも本当に俺が欲しいって…!」
叩き付けるように。
当たり散らすように。
まるで、あの日のカガリのように喚いて。喚いて。喚いて。
なのに、全身全霊で女の答を待っているようで。
――哀れなほど、全身全霊で。
痛々しい程に鋭く響いた叫びは、冷たい無菌室の中、沈黙に飲み込まれた。
射抜かれたままの琥珀が、やがて、ゆるゆると伏せられた。
息を吐き、静かに瞼を持ち上げる。ひたと翡翠を見つめた。
震える唇から、掠れた声が零れ落ちる。
「…ずるいぞ」
アスランが小さく目を見開いた。
「お前、逃げてる。逃げるなよ。私はもう逃げてないんだから」
あの日、屋上で。
目の前の少年は恐怖を隠そうとする自分を糾弾し、追い詰めた。
プライドをかなぐり捨てて、認めてみせろと。
その非情さに涙が出た。
悔しさだって一度も忘れた事がない。
けれど、それ故に踏み出せた一歩もまた、忘れたりしない。
「…お前も、もう逃げるな」
アスランを追い詰めたいわけではない。
だが、自分達は同じくらい負けん気が強く、子供染みていて、頑固で、だからこそ、きっと追い詰められなければ殻を破れない。
なんて、自分は、バカなのだろう。
こんなにも、彼へと、渇きに似た辛さを感じているなんて、知りもしなかった。
顔から色が抜け落ちたアスランの唇が、震えた。
音は成されず、情けない呼気だけがひゅう、と小さく掠れて零れ落ちる。
「…私をやるよ」
そんな少年を真っ直ぐ見詰めながら、カガリは震える右手を伸ばした。
「それしかないなら、私をやる」
日に焼けた細い指先が、少年の頬に触れる直前で躊躇するように止まる。
まるで、そこに見えない壁があるように。
触れない指先の間を擦り抜け、涙に濡れた声だけが少年に届く。
「やるんだから、受け入れろよ?
これは見返りとかじゃなくて……ちょっとしたお願いなんだけどさ…
私がお前を受け入れるように、お前にも私を受け入れて欲しいんだ」
指先は頬を素通りし、肩に添えられた。
ゆるゆると力を込めて引き寄せ、
「奪い合えば、足らないんだ。分け合えば、余るんだ。
世の中のものは総てそういう風に出来てるんだ。
………愛だって」
背中に両手を回し、瞳を見開いたままの少年を優しく抱き締める。
そうして、頬に触れる距離で囁いた。
「…世界は、優しく出来てるんだよ」
声が、出なかった。
息がからまって、上手く呼吸が出来ない。
混乱と後悔と、そしてきっと、切なさで。
優し過ぎて痛い。
翡翠が揺れて、揺れて、伏せられる。
「…なんでいるんだろう、あんたみたいな奴が…」
声はくぐもった吐息の中に酷く頼りなく溶けた。
カガリはアスランを見つめる。
向かう翡翠がじわりと滲んだ。
掠れた声が落ちる。
「真直ぐで、純粋で、綺麗事ばかり言うくせに……それを貫き通す」
涙がせり上がり、頬を伝う。
カガリは背中に回した片手の指先を、その涙の軌跡に労るように沿わせた。
濡れた頬を優しく撫でる。
その一連の動作が酷く優しくて、アスランは更に涙を零した。
嬉しくて、胸が痛い。
自身が浅ましくて、胸が痛い。
あとは、もうただ―――哀しくて。
「………むなしかったよ。ほんとは……」
零れた言葉は弱弱しく、儚げで。
常ある少年の姿からはかけ離れていて。
「…欲しい。あんたみたいな人が」
頼り無げに。
縋るように。
けれど、本心を飾ることなく。
初めて偽ることなく。
「ただ一人、カガリだけが」
そうして、アスランは仮面を外した。
幾重にも張られた仮面が崩れ落ちていく様は、息も継げない程苦しかった。
あれ程憎んでいた強固な偽りの仮面は、壊れる時は一瞬で、罪悪感にも似た感情が涌いた。
(…なんて、脆い)
総ての虚偽の下に埋もれていたのは、どうしようもなく哀れな独りぼっちの少年。
(守ってやりたい)
喜びでも、悲しみでもなく。
もっと衝動的な、押し寄せる波のような痛み。
その押し寄せる波は心臓の辺りから放射状に全身に駆け抜けた。
そして、最後に眼球の裏側に辿り着き、瞳から溢れ、やがてポロポロと零れた。
(…愛してやりたい)
同情でも、正義感でもなく。
――ただ、純粋に。
抱き締めた震える背中を、あやすようにポンポンと叩く。鼓動に合わせるように、ゆっくりと。
「アスラン…私は本当のお前に、やっと会えたのかな…」
アスランは頭を持ち上げて、翡翠の瞳をカガリに向けた。
「私の知らないお前に。クライン先生が知ってる、総てが変わる前の、本来のお前に」
涙の滲んだ琥珀を見て、アスランは唇を震わせた。
柔らかく微笑んだカガリは、まるでアスランが心の奥底で欲し続けていた、憧憬そのもの。
「アスラン……おかえり」
寂しくて、妬ましくて、歪んで、見失っていた答。
見えなくて、届かなくて、望んで、遠ざけていた温もり。
それが今、アスランの目の前にあった。
(…答は此処に。
温もりは、此処に)
言い知れぬ幸福感に、アスランは年の変わらぬ教師を抱き締める。
泣き笑いのような表情を浮かべながら。
仮面を剥いで。
素顔を暴いて。
破壊して。
支配して。
失って。
そうして、やっと……少年は愛に辿り着いた。
授業終了の鐘が鳴る。
ルナマリアは身軽な動作で椅子から立ち上がった。
目敏く気付いたメイリンが、斜め後ろの席から声を掛ける。
「ルナ…アスラン君の様子見に行くの?」
舌ったらずの彼女の声を、甘い綿菓子のようだと例えたのは誰だったか。
メイリンは、一部の男子達に熱烈な人気を誇っている女子だ。
要因は、いわゆる妹属性だからだとルナマリアは見ている。
彼女特有の幼さ、いじらしさ、気弱さは、男ならつい守ってあげたくなる衝動に駆られてもおかしくないだろう。
因みに、どんな時も快活で強気なルナマリアは、男子より女子に圧倒的に人気がある。
「だったら何よ?」
「私も行くっ」
予想通りの答が返ってきて、ルナマリアは些か嫌な顔をした。
その表情変化に、メイリンはぷぅっと頬を膨らませ、上目遣いで拗ねたように睨む。
そうするとますます子供染みて見え、あーこれが男のツボにハマるわけね、とルナマリアは肩を竦めた。
「だってルナばっかりずるい。私だってアスラン君と話したいもん〜」
「話せばいいじゃない?別の時にでも。
今回は私が保健室に行くようすすめたんだから、私が様子見に行くわ。何人も行ってどうすんのよ」
「〜〜〜ずるいっ!もぅいいもん!!次は私の番だからねっ」
「……番って、あんたね……」
付き合いきれないとばかりに歩き出すルナマリアの背に、暫くメイリンの拗ねた声が掛かっていたが、教室を出れば、それも聞こえなくなった。
二人は幼稚園の頃からの幼馴染みだ。
誰に対しても物怖じしない活発なルナマリアと、人見知りでおとなしいメイリンは誰から見ても殆どの面に置いて正反対だったが、かえって不思議と気が合った。
姉御気質と妹気質が上手くはまったのかもしれない。
何をするにも一緒というわけではないが、クラスが何度か別々になった時も縁が薄まる事は無かった。
アスランがお互いに好きだと解った時すら、関係に僅かな亀裂が入る事も無かった。
だが、とルナマリアは思う。
(それに関しては、単に友情がどうのこうのじゃあないのよね…)
もう一つの原因を自分は確信している。
そして、それがあながち間違っていない事も。
(アスランが何処までもビーである事を貫き、自分達が客であるそのポジションから抜け出せないから、だわ)
ビーの前では、総ての女は等しく客だ。
蜂は蜜を垂らす花畑を餌場とし、自由に飛び回る。
一つの花になど固執しない。
(罪な男よ、ほんと)
だが、それすら魅力的だと感じる自分達こそが、もっとずっと重症なのだろう。
「…あら?」
廊下の角を曲がって、ルナマリアは目をパチリと瞬かせた。
向かう先にあるのは、保健室。
しかし、その扉の前には何故か部屋の主が何をするわけでもなく、突っ立っている。
室内に入る気配も無いようだ。
「…クライン先生?」
ラクス・クラインはビーとその客達にとっての理解者。
ルナマリアはそう思っている。
窮屈な箱庭に通う紳士淑女が、その実中身まではそうではないと解っている保険医。
ビーの噂を知っており、けれど、非難をする事もなく、時折現れる女生徒達の恋や性の悩みに件の少年の影が見え隠れしても、それには何も触れず行為を黙認する。
多くの女生徒達と接する内、ビーの正体がアスラン・ザラであると気付いてしまっている可能性は大いにあるのに、それでも何のスキャンダルにも発展しないのは、きっとひとえに。
(おしゃべりじゃないから。
ザフト学園の名誉を傷付けたくないから。
それから多分………
私達女の味方だからだわ)
ここまで話の解る教師は稀だ。
何か問題が起こった時にも助けてくれるかもしれないし、ビーとの関係を円滑に続けていく為にも、彼女とは仲良くしていかなければならない。
秘密を共有しているかもしれないなら。
知っていて黙すなら。
ラクス・クラインは間違いなく我々の味方なのだ。
「どうされたんですか?廊下で」
掛けられた声に、桜色の髪が綿菓子のようにふわりと揺れ、端整な顔が振り向く。
…一瞬、強張ったように見えたのは気のせいだろうか。
「入らないんですか?」
軽い足取りで寄ろうとしたルナマリアを、ラクスの白い手が制す。
え、と目を瞬かせる少女に、空色の瞳はしばし何かを思案するように空を見つめ、ややあって柔らかく細められた。
「個人面談中により、保健室は今立ち入り禁止ですの」
律義に歩みを保健室の扉から5歩程離れた位置で止めたルナマリアだったが、その言葉に訝しげに眉を顰めた。
「……面談って……中にアスランいますよね?」
空色の瞳が大きく揺れた。
「彼、具合悪くて保健室行った筈なんですけど………プライバシーの問題上、第三者がいる所で面談とかないですよね?普通」
空色の瞳が宙を彷徨う様は、常では見られない光景だった。
まるで聞いてはいけない事を聞いてしまったようで、ルナマリアは戸惑う。
「あ…あの…じゃあ、ひょっとしてアスランが受けてるって事ですか?
相手の先生は誰です?私達の担任は今科学室にいる筈だし」
気を遣いながら、それでも確実に訊く事は訊いてくる女生徒に、ラクスは舌を巻いた。
(…これはまずいですわね)
室内の二人は小声で話しているのか、今は衣擦れの音すら聞こえない。
だが、その事がかえってラクスを迷わせた。
話し声が聞こえるなら、その内容によって戸を開ける事も出来るが、万が一、二人が無言で抱き合っていようものなら、絶対に開ける事は出来ない。
つい個人面談と嘘を吐いたが、かえってそれが仇になってしまった。
ルナマリアがアスランが中にいる事を知っている事を想定しておくべきだった。
そうすれば、今眠った所だから開けてはその音で起きてしまうかもしれないとか、他の理由を言えたのに。
(総ては後の祭……。
けれど、このまま相手教師の名を明かさないのは不自然だし、かといって嘘を吐くような下手は打てない…
ばれた時の言い訳が立たない!)
だが、正直にカガリの名を明かすのは、ラクスには躊躇われた。
自由に飛び回る蜂は今、漸くその羽を休めようとしているのだ。
数多の花より、とどまるべきたった一輪を選んで。
甘く、歪んだ悪夢から目覚め、陽の当たる澄んだ場所へと。
(だから、邪魔はしたくない……変わっていく彼を邪魔されたくない…!)
自分はカガリを信じると決めた。
正義と道徳を掲げる新米教師は、何処までも夢見がちで、だからこそ揺るぎない強さがある。
彼を導く強さがある。
己の負の感情を打ち消すほどに正の感情を与える者に出会ってしまえば、運命は一蓮托生だ。
ならばお互い、出した答に最後の最後まで付き合うしかない。
不自然な沈黙を続ける保険医に、ルナマリアが本格的に違和感を覚え始めた頃、ラクスが口を開いた。
「面談の相手は先生ではありませんのよ」
え、と小さく声を漏らすルナマリアを、空色の双眸が眺める。
(ルナマリア・ホーク。アスランのクラスメイトで、ビーの一番のお得意様…でしたわね、たしか)
「先生じゃないなら、誰なんです…?」
「女生徒さんと秘密のお話し中ですの」
廊下に生暖かい風が吹いた気がした。
頬をなでる気持ち悪さに、ルナマリアは我に返る。
「…それって」
言いかけて、言葉を途中で切った。
何かに気付いたように鋭く瞳を細め、探るように扉を視線を移し、次いでラクスに戻した。
ルナマリアの視線を正面から受け止めてなお、ラクスは悠然と微笑んだ。
その笑みでルナマリアは、確信する。
やはり彼女は、ビーの正体を知っている、と。
押し黙っていたルナマリアが、低い声で問う。
「…つまり、ビーのお客と一緒にいるって事ですか…?」
ラクスが笑んだまま、答える。
「ビーとしてではありません」
柔らかく、慎ましく、静かな迫力を持った笑顔。
一瞬気圧されたルナマリアは、けれど続く言葉に目を剥いた。
「アスラン・ザラは、もうビーを辞めましたのよ」
―――動悸がスピードを上げたのが解った。
「や……辞めた…?」
掠れた声は、もはや自分の耳にも届かなかった。
今、この保険医は何と言ったのだろう。
(アスランが客ではない女生徒と密室で秘密の個人面談をしていて。
そして、彼はもうビーではない?)
自分の知らない間に、一体何が起こった?
それとも、ずっと前から起こっていたのか?だとすれば、いつから?
思考が事態の変化についていかない。
ルナマリアは震える声で、必死に言葉を紡ぐ。
「客以外の誰を抱くっていうの…?ビーとして以外に、あのアスランが誰かを抱くの?」
胸が急激に苦しくなっていく。
蜂と客の関係はきっといつまでも不変で、それでも、他に一時の夢を買える手段すら無かったから、諦めていたのに。
彼が何処までもBである立場を貫くから、自分は踏み出せなかったのに。
(いつの間に貫くのをやめたの?…いつの間に誰に崩されたの)
裏切られた悔しさと奪われた怒りで、ルナマリアは叫んだ。
「なんなのよ今更!相手は誰!?そこをどいて!!」
大きく一歩を踏み出し、扉に手を掛けようとするルナマリアを、ラクスが阻む。
「駄目ですわ」
「嫌よ!このままじゃ納得出来ない!せめてその女を見てからアスランに直接話を…!!」
「……それは許しませんわ」
柔らかな、けれど、ヒヤリとしたラクスの声音に、ルナマリアは思わす息を止める。
保険医は常と変わらず優しげな笑みを湛えていて。
けれど、その瞳は氷のように冷たくて。
美しい顔がルナマリアに近付く。
そうして、鈴の鳴るような涼やかな声が降った。
「もし、あの蜂が恋に落ちたなら…見守っていたいじゃありませんか?」
その言葉に、ルナマリアはラクスが決して客の味方だったわけではなく、アスランの味方であった事を悟る。
見開かれた瞳が徐々に滲み、唇が慄いた。
「うそ……うそよ……」
涙声で呟きながらヨロヨロと去っていく紅蓮の髪を眺めながら、ラクスはふうっと息を吐く。
鉛のように重さを増した空気が、室内の二人に届いていないといいのだが。
ひとまず窮地は脱した。
だが、自身が投下した爆弾の意味を理解しないわけではない。
本当にもう、後には退けない。
彼等も。
自分も。
確実に立ちはだかるだろう壁の存在を予感しながら、ラクスは天を見上げた。
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